2015年10月12日月曜日

小坂の滝 兵衛谷完全遡行編 その2

自分の中では兵衛谷の流域はおもに4つのパートがあると考えている。濁河川出合から吸口滝までのイントロ的下流部。続いて石楠花沢出合までの溶岩流の美しい渓相が特徴的な中流部前半。材木滝までの大滝を主体とした豪瀑帯の中流部後半。一気に垂直距離を上げ変化の激しい上流部から源流帯。この変化をいっぺんに楽しむことに完全遡行の楽しみがあるのです。

そんな中で僕自身大好きな場所があります。それがここから始まるしょうけ滝下流部のゴルジュ帯。吸口滝を越えゴーロを歩くとほどなく岩質ががらっっと変化した事に気が付く。黒く滑らかな曲線を描き側面から覆いかぶさるように溶岩の壁が迫って来る。だんだんと狭まり半ドーム状になったその先には底知れぬ漆黒の大淵が広がり奥に小滝が落ちている事が確認できる。

昼なお日が差さぬ急峻な地形にあって、更に覆いかぶさる溶岩の黒い壁の威圧感も助けてなんとも不気味な場所。漆黒の大釜を泳ぐには勇気が要るが恐怖心を抑え込みながら小滝のヘリに取りつき這い上がった。

兵衛の胃袋に突入
ここから始まる渓相はまさに”異次元”。谷は極端に狭まり細いグネグネの水路はまさに”胃袋”の様だった。そう僕たちは”兵衛の胃袋”に入ってきたのだ。度重なる泳ぎのために完全装備はしていたものの寒さが堪えるようになっていた。とはいえまだまだゴルジュは終わらない。

滝の無い滝壺、独立岩峰、箱滝などの美観を経て兵衛谷最峡部を通過。ここは両手で突っ張れるほどの谷幅。水圧を避けて小巻する。すると間もなく中流部ゴルジュの出口に鎮座するボス、しょうけ滝(2段20m)が現れる。しかし巻道は明瞭で左岸の五徳岩と呼ばれる岩くつを潜り抜け滝上部に出る。ここで一気に谷は開け開放的な広々とした空間となる。泊まっていきたいロケーションだがまだまだ前に進む。

兵衛谷最狭部
しょうけ滝
しばらくは平凡なゴーロ帯を進むとこの谷名物の”出口の無い扇滝”に出会う。溶岩の下を水がくぐりサイフォンの様になって石橋の外に湧き上がっている。絶対落ちたくない滝のため左岸を慎重に登って越えていく。

ほどなく兵衛谷取水堰堤。正面突破をもくろみフリクションで登る。しかし上部に手がかりもなくずるずる滑り落ちる。ここは無難に。堰堤は右巻きで難なくクリア。ここからは兵衛谷本来の水量を取り戻す。溶岩流のナメ床も優美なものではなく大水量ドバドバの”暴れナメ”。渡渉も若干デリケートになる。出発から6時間経過する頃足取りも重くなってきた。ここから始まる大滝群を前に大休止をとる。ここまででも随分と変化に富んだ素晴らしい遡行で満足気味だが僕たちの目標はあくまで完全遡行。兵衛谷最初の一滴を見ない事には終われない。1泊2日で抜けるためには今日中に少なくとも材木滝くらいまでは歩みを進めておきたい。

出口の無い扇滝
さて昼食もさっと済まし遡行再開である。水圧の強い渡渉を繰り返しゴーロ帯を進んでいくと石楠花沢を右に分け間もなく2段の滝が行く手をふさぐ。泳いで突破もいいのだが体力の消耗を避け右岸から小巻することに。泳いで突破した方が早いだろうが高巻きも5分程度で完了したので良しとしよう。二段の滝上の廊下は妙に魚影が濃い。ドンつまりには大きな釜を持つ通称”魚止滝”なるほど魚止めというだけあって魚がたまるのかな?そう思いながらも悠長に竿を出している場合でもないのでこちらも左岸を小巻して滝上に立つ。


大きな釜を持つ魚止滝
この魚止めを皮切りに大滝の競演が始まった。先ずは怒涛の大水量を一文字に垂直に落とす吹上滝(25m)滝の前の岩盤に水流がぶち当たり直角に曲がる。そのためものすごい勢いのしぶきが吹き上げられている。この滝も比較的コンパクトに左岸を高巻き。NPOのルート工作のおかげで楽ちんだ。吹上滝上部にもナメが続き5~6mほどの幅の広い滝×深い滝壺のセットが連続する。どれも容易に突破できるが滝が連続するため疲れた体には堪える。


ドバドバー!吹上滝
目の前の景色が再び狭くなり左右の側壁が高くそそり立つと最後の大滝の連瀑帯に差し掛かる。前衛の屏風滝(30m)は文字通り屏風のような岩盤が滝を取り囲み容易に寄せ付けない威圧感を持った滝だ。この高巻きはちと癖がある。左岸のザレ状より巻き上がり屏風の岩壁上部に出る。スリップに注意を払いながら絶壁すれすれを絶妙についた踏み跡をたどるとほどなく岩折滝と屏風滝を分ける痩せ尾根に乗り上げる。さすがにこの高巻きはしんどかった・・・。
サコ状を下ると岩折滝。しかし観瀑するために降りる気力も無くそのままの高度を維持しまとめて高巻することに。途中足元に岩折れた木を見ながらきわどい(泥壁の立った)トラバースをこなし岩折滝落口ぴったりに巻く事が出来た。全ての高巻きを終えて所要時間は1時間。これでもかなりコンパクトに巻けたのではないかと思う。

屏風滝は遠望し高巻き

さぁここからは気力勝負。目標の材木滝までは距離にしたら3km足らず。魚還滝(13m)を左岸より巻き越えると眼前に巨大な石橋が出現した。兵衛谷の盟主・龍門の滝だった。昇り竜の腹の下を滝が流れ落ちる奇観。溶岩の谷ならではの光景だ。泳ぐのが嫌なので直登ラインははパス。左岸よりコンパクトに巻いた。間髪入れず袴滝(20m)この滝の大高巻きはぼくらをヘロヘロにさせた。もはや無言である。大釜の滝などナメの美しさに見とれる間もなく黙々と歩く。

盟主・龍門の滝(15m)
ようやくたどり着いた材木滝。この時点で17時過ぎ。通常の遡行ならとっくに行動終了している時間帯にも関わらず僕らは今夜の宿を求めてさまよい歩いていた。日も暮れ薄暗くなった樹林帯を疲れ切ってとぼとぼと歩く。もはや気力も尽きかけている。そんな時目の前に大きな人工物が現れた。兵衛谷大橋である。と同時にもうダメ。完全に集中力が切れました。今夜の宿は迷わず即決。ここで終わりにしよう!

幅広い堰堤上の材木滝

長かった一日目の遡行は終了。さっさとテントを設営し湧水で米を研ぐ。米が炊けたらケイチャンだ。荷物の軽量化も重要だが明日への活力がもっと重要。沢では生米から炊く米が特にうまい!ケイチャンも重いが持ってきた甲斐があったもんだ。わずかな焼酎でも十分。疲労困憊でこの日は瞬殺。夕飯も早々にシュラフにもぐりこみ深い眠りに就いた。明日は強以上に過酷な試練が待っているだろう・・・。明日は明日の風が吹くさ。

つづく。

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