2022年9月21日水曜日

【備忘録】大井川赤石沢 最終章”偉大なる赤石沢”

赤石沢生活三日目、夜中に目が覚め、寝床から空を見上げるとまだまだ月が高く上っている。時計を見ると午前3時。4時起床予定ではあったけれどパッチリ目が覚めてしまった。出発も早いことだし火を起こし直しながら白湯をすする。しばらくするとホラくんも目覚め朝げの支度。昨日仕込んだイワナのあら汁(通称ホラ汁)を温め直し、米を炊く。焚火は灯りにもなるし暖も取れるし調理もできる。まったくもって沢には無くてはならない存在だ。ホラ汁をすすり体に熱が入る。さぁ3日目のスタートだ。朝食を済ませ撤収し出発する頃にはあたりはすっかり明るくなり6時より百間洞の遡行を開始した。いよいよ詰めだ。百間洞は水量もぐんと減りはしたもののまだまだ源頭の雰囲気ではない。小粒だが端正な滝が次々と出てくる。相変わらずイワナもまだまだ濃い。

最初の3連瀑は右巻き

どの滝も難しくはないけどまだまだしっかり沢登りさせてくれる。滝と滝の感覚が狭まり行動が急激に上がっていくのを感じられる。いよいよ終盤だ。ゴルジュとまでは行かないまでも谷が狭まり側壁が立ち上がり始めた。いよいよ最後の滝のお出ましです。百間洞最後にしてこの遡行最後の滝は高さもあり立派な釜を持つの端正な直瀑。思わず見惚れてしまう美しさだった。まさにこの遡行をしめくくるにふさわしい見事な滝にしばし撮影タイム。ちなみにこの滝壺にもちゃんとイワナが居た。

最後の滝(落差15mほど)

この滝はさすがに登れないので右のルンゼから上がり絶妙に続くバンドを使って小さく巻くことができた。ただルンゼからバンドにトラバースする出だしの濡れた岩が滑りそうで気持ち悪い感じだったが、実際に足を置いてみると見た目以上にフリクションが利き難なく行けた。もちろん注意は怠らない。滝上部からやっとで源頭の雰囲気。標高は既に2200mを越えている。まさかとは思いながらも流れの中を観察しているとやはりイワナがいる。いったいどこまで生息しているのか。

そしていよいよクライマックス。谷は大きく開け、振り返ると南アルプスの稜線が目線の高さに迫ってきた。あたりも背の低いダケカンバの樹林になり紅葉(というよりは枯れている)の林が続きいっきに晩秋の雰囲気になった。7:30ついに百間洞山の家にたどり着いた!そしてこれで赤石沢を詰めきったことになる。達成感とともに得も知らぬ悲しみにも似た感情が湧いてきた。あーこれで終わってしまったのか、赤石沢。でもそんな感傷にひたっている余裕はない。なんせここからがある意味最も体力勝負な行程。この最低暗部から縦走路に復帰し赤石岳山頂を踏まなければ下山することさえ許されない。沢装備を解除し遡行者はこれにて終わり、今度はピークハントの登山者に成り代わるのであった。

百間洞山の家に躍り出た!


百間平までの上りはとにかくしんどい。2日間の疲れが蓄積しているため足取りも重い。ただ救いなのが背後に広がる雄大な南アルプス南部の山並みの美しい景色。立ち止まり振り返り元気をもらってまた登る。その繰り返しで百間平にたどり着いた。自身初めてとなる百間平は控えめに言っても最高の場所!背後には南の南アルプスの山並み、眼前には赤石岳と荒川三山(主に前岳)の荒々しい山並み。朝の光に照らされるその景色は神々しさすら感じる。景色を楽しみゆったりとした尾根道を歩きながらながらこの度の余韻に浸る。あーなんたる贅沢な時間だ。この雄大な景色、ネイチャーフォトグラファーが黙ってはいません。後ろに行ったり前に行ったり。疲れを感じさせないフットワークでシャッターを切りまくっている。ホラくん、君はもうプロだね。

荒川前岳 Phot by HORA

縦走路を振り返る Phot by HORA

百間平を過ぎればいよいよ赤石岳山頂部への取りつき。ガレた大斜面をトラバースして回り込み、最後に一気に200mを登る。休み休み着実に高度を稼ぎ、ヘロヘロになりながらもついに山頂に到着した!いやーしんどい、これでもかってくらいしんどかったー!頂上ではガスに包まれ景色は楽しめなかったけどもう十分全て楽しみましたから、もう欲張りません、というかおなか一杯です!!!もう勘弁してください。

赤石岳山頂にきたー!

山頂に立った、つまりこれで登りは終了。椹島(牛首峠)から出発して初めて下りに転じる瞬間。これでようやく下山路につくことになる。しかしこの下山も長い!標高3140mから1100mまで一気に2000mの下り。10:40頂上をあとにし下山開始。足もヨレヨレだけどガンガン飛ばす。結局椹島の登山口に着いたのが14時10分だからちょうど3時間半で下ったことになる。随分とばしたなー。登山口から牛首峠まではわずかな上り。もうほぼ無心で歩きやーっとのことでチャリのデポ地にたどり着いた!

ただいまー!

くたくたよれよれなのでしばし大休止。今は満足感に浸るというよりは疲労感に沈む感じ。20分ほど休んでようやく生気を取り戻し車に戻るべく16kmのチャリライドをスタートした。帰りは下りなのでらくちん♪とは言えないほどアップダウンがわりとあるしやっぱり疲労が積み重なっているので序盤こそ爽快だったが終盤は体のバッテリーも、E-Bikeのバッテリーも底を尽き、残り8%というところで何とか沼平ゲートに戻ってくることができた!これにて完全達成!!!達成感半端なーい!!!!

帰りは白樺荘のぬるぬる温泉で汗を流し、のんびりと小坂に向けてドライブ。結局家に着いたのは23時だった。まぁ遠いわ。

2泊3日、といっても前乗りしているのでほぼ3泊4日のこの沢旅はなまりがちな僕にとっては近年まれに見ぬ大冒険、そして見分を広げる価値ある時間となった。今回相棒を務めてくれたホラくんの活躍があってこその成功、そして遡行内容の満足感。感謝しかない。

赤石沢を全身で文字通り”味わい尽くし”その偉大さをビリビリと感じ魂に刻み込むことができた。後何度こんな魂の震える体験ができるかわからないので今回の遡行を丁寧に備忘録として残しておきたい。そんな思いで4章に渡る長編備忘録にってしまった。

ありがとう!赤石沢!!!また来ます!?








【備忘録】大井川赤石沢 その3”IWANA HEAVEN"

 2日目の夜明け。昨夜は思いのほか寒くなくハーフレングスのシュラフ(モンベルの#3)でも全く問題なかった。今日も朝から快晴!焚火を起こしゆっくり朝支度。そう、今日は最も楽しみなイワナの桃源郷、改めIWANA HEAVENに突入するのだ!!すでにその片鱗は昨日からも見受けられていたのだが、後々振り返ってみるとこの先のそれには到底及ばない、まさに天国が待っているとはこの時は思いもよらなかった。

さぁ2日目もはりきっていこー!
今日は距離的には3日間で最も短い行程。出発から竿を出しいてみる。淵という淵、ポイントというポイントでイワナが上がる!前後には比較的大きな滝があってそれぞれが魚留になっているのではないかと思うが、その区間ひとつひとつに居るイワナの密度が濃い!そしておもしろいように釣れる。しかしながらここはまだまだ核心部真っただ中。しばし休戦しここからは谷と向き合う。
これぞ赤石沢!見渡す限り赤い岩だらけ

相変わらず巨岩に阻まれすんなりとは通れない。無限ボルダリング絶賛継続中。遡るにつれ岩の赤さが目立つようになる。そう、この沢の由来となったラジオラリアと呼ばれる岩石で谷全体が構成されるようになってきたのだ。水にぬれた部分の赤さは際立ちレンガのような色合い。対照的に済んだブルーの釜との共演で異世界間が半端ない!

大ゴルジュの入り口

ネイチャーフォトグラファーはその自然の造形にくぎ付けとなり歩みは牛歩のようになった(笑)とにかくこの沢は見どころが多すぎて困る。やっとこさ大ゴルジュに到着しふと正気に戻る。まだ核心部は終わっていなかった!

2本の支流のうち右を登る


とりあえずゴルジュの正面突破は難しそう。セオリー通り枝沢からの大高巻に入る。2本ある枝沢の右側に取りつき登り始める。適当なところで右の斜面に取りつきルートを探るとしっかり踏まれた踏み跡が続いていた。崩落地を横目に見て斜上するがどんどん切り立っていき、しまいには垂直に近くなる。さすがにここはロープ出さないとまずそう。ただこの先傾斜が緩むようにも見えないのでとりあえずもと来た道を引き返し枝沢に戻った。

行き詰ったポイント

さて、仕切り直し。谷筋はヌメヌメにつき、いったん左の尾根に出て谷沿いに高度を上げる。ここも決して楽ではなく、木登り系の高巻きとなった。程よいところでまた枝沢に復帰し、少し上ると右の尾根に取り付けそうなのでそのまま尾根へと取りつく。そこからは比較的平坦で踏み跡も明確になる。尾根をトラバース気味に巻くと途中1本沢状の地形があり、降りるか迷ったがもう一本向こうへ行こうということでなおも進むと広い沢状地形が。眼下には川原も確認できた!よし、これで何とか歩いて降りられそう。

高巻きから沢に復帰すると目の前に美瀑が!

高巻きには1時間を要した。お疲れさん!これで核心部を抜けたことになる。ほっと一息ホットコーヒーで労をねぎらう。目の前の枝沢の美瀑が目を楽しませてくれる。さて、ここからがお楽しみ♪休憩もそこそこにホラくんは早速竿を出している。獅子骨沢までは一息。この間わずか200mそれでもやはり魚影は濃い。ロケーションの良い獅子骨沢の正面で昼休憩!もちろん今回もイワナを釣りお刺身にしていただく。う~ん最高!!

職人ホラのライブキッチン♪

昼ごはんをのんびり食べて、ここからは釣りモード。もうこれが面白いほど釣れる!しかも今までの比じゃないほど釣れて一投必殺状態。なんだか釣りがうまくなったのではと錯覚してしまうほど良く釣れる(もちろん全部リリースしてますけどね)しかも尺は行かないまでも良型ばかり。(ホラくんは34cmを釣った)

爆釣で楽しさ爆発だー!

この分だと釣れすぎて進めないのでいったん竿を納め先に進むことに。ほどなくして赤石沢最大の大淵と目される巨大な釜にぶち当たる。ここは前評判でイワナのパラダイスだということを知っていたので期待してのぞき込むと、そこには想像をはるかに超える光景が!!もううじゃうじゃ。しかも大きいのがたくさん。きっと産卵のために集まってきたのかな、と思うほど大きい魚がいーっぱい!いっぱいい過ぎでなんだか逆に竿を出す気にもなれないのでここは早々に通過することに。巻は小さく。左壁を落ち口付近までへつってそのまま樹林に突っ込み2段ある滝を二つまとめて高巻した。

イワナがゆうゆうと泳ぐ大淵

今夜の泊り場の百間洞出合いまではもう直線距離にして500m程度。よし、これならということで釣り再開。今度は今夜の獲物を釣りあげるための釣りタイム。お目当ては25cmオーバーのオス。マナーとしてメスは食べないことにしている。やっぱり卵を持っているのでそこらへんは配慮しないとね。二人とも次々と釣り上げる。しかしやはりここはIWANA HEAVENえりすぐりの4匹があっという間に釣れてしまった!

獲った魚を”撮る”

裏赤石沢出合まではそこそこ登る滝があり上流部とはいえまだまだ手が抜けない。最後のCS滝を越え裏赤石谷出合を過ぎてほどなく奥赤石沢と百間洞の二股に到着。今夜はここにて行動終了。こちらもナイスなテンバが出来上がった!夕食は良型のイワナ4匹を使ったフルコース。刺身から始まり、タタキ、炙り、天ぷら、あら汁。(ほぼ全てホラくん作)もうすっかりイワナ腹!イワナで腹いっぱいなんてなかなか無い!幸せに包まれながら今宵も焚火をおともにごろ寝。もう社会復帰できそうにないなー、そう思わせてくれるほど充実した二日目に幕を閉じたのであった。

ホラシェフ謹製・イワナのタタキ!絶品でした!!



最終章”偉大なる赤石岳”へ続く



【備忘録】大井川赤石沢 その2”核心部突入”

入渓前の計画段階で、今回の遡行を大きく分けて4パートに区切っていた。まず下流部として入渓点~北沢出合。大きな淵やゴルジュが連続し、水量が突破のキーになる。続いて北沢出合~獅子骨沢出合までの中流部。こちらは滝の登攀や高巻きが肝となる。そしてお楽しみイワナの桃源郷と目される上流部は獅子骨沢から上流で、最後の二股を百間洞に進路をとり、稜線に詰め上がるまでとした。そして最終区間で鬼門の下山路。下山というより、もはや縦走といっても過言ではない。百間洞山の家から赤石岳山頂を踏み、東尾根を椹島まで下る。登山ならこの区間だけで丸1日使うところ。

 さて、そんな4つのパートを2泊3日で抜ける計画。しかも今回はイワナの桃源郷でイワナ祭り(!?)がサブテーマ。そのため僕たちは初日にがんばって距離をかせぎ、核心の中流部を片付け、2日目は短い行程でぞんぶんにイワナと戯れ百間洞出合に宿泊、沢中2泊で満喫し、その代償として最終日は百間洞を登り、さらにその後地獄の下山を心行くまで味わうという距離的にはまったくもって不均等な計画を立てた。

さて、少々無理と無駄(あそびごころ♪)のあるこの計画にのっとり北沢出合の休憩を終え、いよいよ核心部へと突入していく。先ほどまでの明るい渓相から一転、谷は急激に狭まりゴルジュ帯となる。滝も次第に高さを増していく。そして当たり前だけど取水堰堤を過ぎたので先ほどまでの水量と比べて格段に多い!滝も迫力が違う。

高さは無いがものすごい水量の豪瀑

いくつかの滝を越え、谷が一段と狭くなった。谷はかくっと左に曲がり側壁はそそり立ってきた。なにかくるぞー、そして曲がったその先にいよいよ落差20mはあろうかと言う巨大な門の滝が登場した!!巨大チョックストーンの左右から水が勢いよく吹き出し下部で立体交差している。滝つぼも恐ろしく深く前衛滝を伴い2段構成の釜。上から見ると虹がかかって見えた。しかしまぁ、ものすごい迫力だ!

門の滝を俯瞰するポイントに出た!

文字通り門のようなこの滝。これを突破しないことには先には進めない。この滝越え方は二通り。右岸の場合は草付きバンドを登り落ち口めがけてトラバースする。もうひとつは左岸の草付きを斜上し滝の頭に出る方法。左岸は見るからに支点となりそうな木が無くノーロープで突っ込むほかなさそう。一方右岸のバンドは立って見えるけどなんとかなりそうな角度。岩にもクラックがあるのでカムは効きそう。ということで安全を取って草付きバンドから攻略することに。右岸から枝沢が合流するバンドの基部に行くまでもきわどいトラバース。ホラくんのリードで登攀開始。こともなげにホラくんはスイスイ登っていく。しかし最初の支点がとりずらそう。結局後から聞いてもまともな支点は5mほど登った灌木くらいだったよう。バンドのトップまで登りピッチを切った。僕はセカンドなのでらくちん♪ユマーリングで登るのだ。が、しかし今回使用したロープが7mmだったため、アッセンダーにタイブロックを使用して登り始めたらストンストン落ちる。そう、タイブロックは8mmまでが対応範囲だったのだ(泣)結局アッセンダーとしての意味は全くなく、ほぼ確保無しで登る羽目に。登った感触として草付きだけに足場が見極めにくく適度なスタンスが乏しいのでリードで登るには灌木までが核心。そこまではカムの利きも悪くほぼ確保できてないのと一緒なので要注意。

草付きバンドを登る

バンドの頭から落ち口上をトラバース。こちらもホラくんがそのままロープを引っ張る。落ち口上に降りるところが悪い。全体的にぬめぬめで草付きバンドよりリードは悪かったと思う。セカンドはお構いなしだけどね。

落ち口上にある小滝めざしてトラバース

この登攀に1時間を要した。まず一つ目の、いや、最大の核心を突破できて一安心。小滝の上で大休止。ここからは間髪入れず次々と難所が続く。続いて登場したのが巨岩で構成された洞穴を伴う10m滝。ここはエイドクライミングで越える。まずは空身で僕が突っ込む。洞穴内部に垂れ下がる残置スリングを利用し1段上がる。真っ暗でヘッデンを出したいところだが足の感覚だけでもステップは探ることができた。そこから人一人通れる穴を抜けて外に出る。外側に出ればあとは簡単と思いきや最後の抜けが悪い!外傾の大岩に阻まれ一手が怖い。リングピンでランニングを取り、思い切ったムーブで乗り越えた。後はいったんロープを巻き取り外側から荷揚げをした。
右の洞穴の中をエイドで登った

門の滝と比べればこちらはずいぶん楽しいアトラクション。とはいえ腕力系の上りで体力は容赦なくえぐり取られた(笑)そしてなおも間髪入れず大ガランという崩壊地と巨大チョックストーンで構成された滝群が現れた。もう体力ありません。もう勘弁してください。休憩がてらホラくんが試しに釣ってみるとなんとHit!ここでも釣れるのか―!!これは夕飯に期待が持てそう。とりあえず釣れたイワナはリリースして大ガランを高巻くことに。右のガレを登り落ち口へむけてトラバース。ここはさすがに滑りだしたら止まらない。落ちたらやばそうなのでホラくんはチェンスパ、僕はバイルを出して慎重に通過した。

大ガラン。奥に見えているチョックストーンの滝を右から越える


ここの先には大ゴルジュが待ち受ける。しかしそれわ越える体力も時間もない。今日はここでギブアップ。しかもそこには優良物件があったのでここ以外に泊まる選択肢がなかったのも行動終了の決め手の一つ。
15時、遡行打ち切りでここからはいかに快適に過ごせるかに全力を使う。薪の方はずいぶん豊富にあったので30分ほどで十分な量を確保できた。魚の方はというとこちらも爆釣!えりすぐりできるほど釣れたが今夜はケイチャンもあるので2匹だけ頂くことにした。
タープを張り焚火を起こせばそこは最良のキッチンでありリビングであり寝室となった。ホラシェフのイワナの刺身、天ぷら、そして持ち込んだケイチャンにと最高の晩飯をいただいた。晩飯が終わるころにはあたりは真っ暗、こうなると睡魔が襲ってくる。焚火の前でシュラフにくるまりごろ寝。これも沢の魅力のひとつなのだ。月明かりがまぶしいくらいの夜だったけど昨夜もほとんど寝ていなかったことも助けて眠りに落ちるのに大した時間はかからなかった。

一等地の1LDK

その3”IWANA HEAVEN”へ続く




2022年9月19日月曜日

【備忘録】大井川赤石沢 その1”入渓”

【場 所】大井川赤石沢(4級)

【日にち】2022年9月12日~14日(前夜発)

【メンバー】ホラくん、クマ

大井川赤石沢。沢登りを始めたころから目にしていた南アを、いや、日本を代表する茗渓中の茗渓。南アルプスでも南部の山深い赤石岳に端を発する、流程が非常に長い沢だけに、沢そのものもさることながら下山も大変長く、かつ、出発地にたどり着くだけで自宅から6時間近くかかるため、入りも合わせると4日間必要だ。それに加え、遡行そのものも決して楽ではなく、泳力、登攀力はもちろん、水量や天候などにも大きく左右され、もはや実力のみならず運も味方につけなければ突破できない、そんな難しい谷。

今回、赤石沢遡行を小坂の滝めぐりスーパー助っ人&スーパーエース・ホラくんに提案したところ、二つ返事で「行きましょう!」となった。これほど頼れる相棒が居るのだから今登らない手はない!

日程も即決し、忙しいシャワクラシーズンが終わってすぐに休みをもらい3日間一発勝負で臨んだ。

百間平より望む赤石岳山頂はまるで独立峰のような存在感


一週間前から天気が気になるが、どうやら台風ラッシュの予感。直前までヤキモキしたが、日にちが近づくにつれみるみる間に天気予報は好天!しまいには3日間ほぼ晴天確定。おまけに台風通過後1週間ほとんど気になる雨は降って無いときた!こんな僥倖めったにない。これはもうなにがなんでも行くっきゃないでしょう、ということで11日は仕事を終わらせその足で静岡入り。千頭の道の駅に24時到着。ここから始まる冒険への期待と興奮でその夜はほとんど寝付けなかった。

道の駅からスタート地点の沼平までは1時間ほどで到着。さぁいよいよ冒険のスタートだ!ちなみに入渓点までのアプローチは2通りある。ひとつは東海フォレストの登山バスを利用すること。もうひとつは徒歩又は自転車でのアプローチ。バス利用には条件があって、東海フォレストの運営する山小屋に一泊することが必須なのだ。赤石沢遡行の場合は百間洞山の家が適当。ただ、この方法のデメリットは山小屋に宿泊すること(小屋泊は1万円程度かかる!)とバスの時刻に合わせて行動しなければならず、時間の制約を受けることだ。そのため今回はこちらは却下、二人とも体力と金欠には自信があるのでスピードと機動力の高い電動チャリを持ち込んで往復32kmのアプローチを走破することにした。


電チャリでGO!

ということで支度を済ませ7時にチャリでスタート!幸先よく沼平のゲートでは仕事に行く作業員さんが開門するのに便乗してスムーズに通してもらった、しかも皆自転車にやさしい。こちらよりも先に皆挨拶してくれる。なんかいいね南アルプス!2か月前の荒川三山&赤石岳のガイドの際にバスに揺られた道。チャリで走るとなんと爽快なことか!!登り下りもあるけどそこは電チャリ。すいすい進んで入渓点の牛首峠には1時間半でたどり着いた。


入渓点から赤石岳を臨む

そうそう、この看板。ここから入渓するんだよねー!しかも唯一ここからしか赤石岳を臨めない。はるか先に見える赤石岳、谷底を忠実にたどり2日後にはその頂きに立つのだと思うと気合が入る。沢装備に切り替えいざ入渓!歩道を進み、つり橋から入渓できるみたいだけど僕たちはまっすぐに降りるアルミはしごを利用し最速で入渓した。


梯子で降りて入渓

AM8:40ついに降り立った赤石沢。その流れは想像していたものとは大きく異なりとてもおとなしく優しい感じ。やはり平水より少ないのでは?そう感じさせる穏やかさに早くもこの遡行の成功を確信せずにはいられなかった。

つり橋下の水位計を見ても水量ミニマム!


今回の遡行のサブテーマ(いやこちらがメインか?)として、そこに棲むヤマトイワと戯れることが大きな目的な一つだ。ホラくんいわく、かつての赤石沢は取水堰堤よりも下部でもうじゃうじゃイワナが泳いでいたということだが、2019年の台風などの影響で下流部では魚影を見なくなったとのことだ。確かにここにはいるだろー、と思うような場所でもイワナは走らなかった。

入渓から約20分で最初の大淵(イワナ淵)に到着した。水深は推し量れないほど深く、規模も大きい。泳いで落ち口から這い上がるのがセオリーか、と左岸を見るとなんだか高巻けそう。岩壁に登り、溝を落ち口に向けて降りる所にトラロープが下がっていた。やはり釣り師が来るのかな。
イワナ淵は泳ぐのを嫌って右から巻く

しばらく進むと大岩の脇をナメ滝が流れる大淵に出会う。ここも泳ぎを避けて左から巻いた。しかしながらこの谷はいちいち岩が大きい。巻くのもボルダリングのように岩を登ったりと一筋縄ではいかない。

この淵は左から巻き越える

いくつかの小滝と淵をやりすごすといよいよニエ淵。名前からしてヤバそう!?ここはさすがに泳ぐ以外突破方法はなさそう。ホラくんが先頭を切って入水。ザックを背負っているのにスイスイ泳ぐ。僕はザック泳法は苦手なのでザックをビート板よろしくバタ足でなんとか切り抜けた。落ち口に直接取りつくラインもあったがぬめって這い上がりが難しそう。右壁が登れそう、ということでホラくん試登。絶妙につながるホールド&ステップで難なく突破!自分も習って取りついてみるとなるほどキレイ繋がっている!とはいえ水中から這い上がって水をたっぷり含んだからだとザックを背負ってのボルダリングは応えるわー。この先何度もこんな場面がやってくるとはこの時は想像していなかった・・・。

ニエ淵手前の淵は確か右からいったかな??


ちなみに泳ぎ対策ウェアは僕はライトネオプレンを上下着込んだ。ちなみにホラくんは上下フラッドラッシュ。水温は覚悟していたほど冷たくは無く、晴れている分むしろ快適なくらいだった。

ニエ淵を越える頃には時刻も10時を回り本格的に日差しが谷底にも入ってきた。右岸の支流から滝が落ち、奥にCS滝を持つ長淵では思わず息をのむような美しい景色を見せてくれた。ここでホラくんがザックからおもむろにカメラを取り出し撮影を開始した。ホラくんは沢屋としての顔の他にも”ネイチャーフォトグラファー”としての一面も持つ写真男子なのだ!今回も新しく望遠レンズを導入したから試運転だと意気込んでいた。沢装備+カメラ機材+釣り道具(テンカラ竿×2+今年から始めたばかりのルアーロッドも!)でおおむね20kgはくだらない。僕はというと軽量化ばかり考え要らないものを極力持たず食料もドライ中心で15kgまで落としてるっていうのに、いや~タフだね~!

枝沢の滝とCS滝の競演

このCS滝が曲者で、遠巻きには右から簡単に抜けられそうだったけど、いざ突っ込んでみると側壁はつるつる。落ち口にいったん降りて渡るほかないけど、そのための足場は落ち口に詰まっている水中の石。いかにもぬめりそうなその石に飛び乗る必要があり、そこに降りるためであろう残置ハーケンと、そこにぶら下がるもけもけのビニールひもをだましだまし利用して何とか超えた。ここも水量が多ければかなり難しそう。続く神の淵と呼ばれる難所のL字型の淵も難なく突破。下流部全般を通して言えることは水量次第でかなり難易度が異なりそう、その点今回はずいぶんやさしいのだと思う。

神の淵入口は右からへつった

神の淵落ち口の滝も楽勝♪



次に現れた淵では思わず叫び声が上がった!大きく垂直に立ち上がった大岩と深い釜、しかもその釜に光が真上から差し込みエメラルドグリーンに輝いているではないか!!なんと美しく、そして素晴らしいポイントなのだー!!ここでホラくんは「ここは飛び込むしかないでしょう!」と息巻き淵を泳ぎ左の岸壁を水中からハイステップでいとも簡単に乗り越えていくではないか。僕もそれに続きトライ!も水中からの這い上がりはくそ重く、雄たけびを上げ気合一発で這い上がった!もうここで全て出し切ったわ~。ヘロヘロです。一方ホラくんはというと、そのまますたすた岩の上に登り、発射体制をとる。そして8mはあろうかという大ジャンプで大釜にざぶーん!!2~3秒くらいは浮かんでこなかった。水面に浮上し「きもちいいー!」の一声、たしかに気持ちよさそうだけど今の僕にはそれをやる余裕はないよ。さ、先へ行こう!

最強の飛び込み台!

飛び込んだ後に浮かぶホラくん


この滝を過ぎたころからだろうか、イワナをちらほら見るようになる。その数は遡るほどに増え、しまいには群れを成して(いるように見えるほど)泳いでいるじゃないですか!?前情報では居ないと目されていたエリアだけに驚きが隠せない。ここでたまらずホラくんが竿を出す。そして一投目の毛針でいきなりHIT!釣りあげたそのイワナはヤマトイワナ(でも若干ニッコウが混じってる感じも見受けられる)。結局同じ淵で僕も含め4匹釣れた(全てリリースしたけどね)これは嬉しい誤算。今晩はイワナには当たらないと踏んでいただけにこれはありがたい!


はじめまして!赤石イワナ!

ここからしばらく進むと取水堰堤に到着。ほどなく北沢出合。12時に到着。昼食用に1匹イワナを釣り、ホラくんが刺身にしてくれた。う~んたまらん!!まだ始まったばかりだというのにこの谷の、この満足感はなんなんだー!半端ない、これが赤石沢かー!!そう感じながらこの先に待ち受ける”試練”を前に束の間の休息を楽しんだ。

その2”核心部突入”へ続く





白山の秘蔵っ子・百四丈の滝

 この滝を知ったのは2016年。はじめて来訪したのは2018年。それ以来なにかと縁があるその滝の名は百四丈の滝。2022年はプライベート&お仕事含めて3回も来訪!氷の滝壺はもはや冬の白山の代名詞なのでは??きっと2023シーズンも行くんだろーな。

氷の滝壺だけでも高さ10mはあるかな~

天池で吹雪かれてビバーク。翌朝は最高のご来光が待っていた。


笛吹川東沢カラ沢~鶏冠尾根下降

【日にち】2021年10月20日・21日
【場 所】笛吹川東沢カラ沢~鶏冠尾根下降(2級)
【メンバー】カイヤマさん・クマ


年に一度の恒例行事。男二人の沢旅。始めた当初はガツガツ攻めていたけど今はしっぽり系がすっかりお好みなこのペア。今回は当初計画よりも伸びに伸び、なんと10月下旬に突入!もはや沢登りシーズンを脱したのでは!?と思うほど朝晩は極端に冷え込むじゃないですか。そしてしまいには予定日は中部山岳では冠雪予定。こんな状況ではありますが楽しんで行きましょう!ということで今回の行先は冬型の気圧配置でも晴天率の高い奥秩父へ決定!
自分自身東沢はもう3度目。慣れ親しんだ!?西沢渓谷遊歩道を行く。紅葉の時期のためか平日にもかかわらず人出は多い。東沢といえば釜の沢が最もメジャー。他には鶏冠谷も良く登られているみたい。
そんな中、今回はかな~りマニアックなカラ沢をチョイス。ガイド本でたまたま目にしてスラブ系&森系、大人のオヤジタビにはぴったり。ちと渋すぎかなとも思いながらも帰りに鶏冠尾根(山梨100山の最難関鶏冠山)を下山路に設けることでちょっとしたスパイスを利かせてみた。
東沢の流れは相変わらず綺麗で秋の沢歩きにはぴったりの明るい渓相。初日はのんびりと釜の沢出合手前をBPとした。薪も豊富で盛大に焚火を楽しんだ。
翌朝釜の沢に入渓、魚留、千畳のナメ、両門の滝などの名勝を観光気分で通り過ぎ、広河原でカラ沢に出会う。
文字通り水流が無い沢筋を本当に大丈夫かな?と心配になるくらい遡るとようやく水流。入り口の5m滝は直登した。その後谷は一気に滑床に代わり終始ナメナメ。ただしナメは全て苔とミズゴケに覆われまー滑ることといったら。もう快適とは程遠いヌメリ地獄。だましだまし高度を稼ぐ。終盤の大滝丈夫ではベルグラが張っておりもはや水際には近づけない。沢登りというよりアイスによさそうな渓相。
ぶつくさいいながら登っていき、いよいよ詰め。忠実に沢を詰めて木賊山に登ってもいいが今回は鶏冠尾根が目的。ということで適当なところで遡行を打ち切り尾根を越え鶏冠尾根に取りつく。
下山路は意外と明瞭ではあったけど落ち葉で良く滑る!ぐんぐん高度を下げるというよりアップダウンが多い印象。鶏冠山のピークは展望が良い岩稜でそこからしばらく下ると15mほどの断崖、ここでこの谷初めてのロープを出す。懸垂は15mいっぱいで基部まで降りることができた。そこからは鶏冠尾根まで多少のルーファイは必要ではあったけどおおむね明瞭な道がついていただのでただひたすら下る。一般道ではあるけれどあまり整備されてはいないのでやっぱり登山道としては危ない印象だった。
鶏冠谷へ下ればあとは東沢の合流点まではすぐ。これでラウンドトリップ完成!

晩秋のカラ沢は正直遡行価値は低く、かといって盛夏に再訪したいと思えるほどのものでもなかった、むしろ下山の鶏冠尾根は適度なスリルが楽しめたのでそちらの方が楽しかったかな、まぁなにより今回は盛大に焚火で楽しんだことが一番か。いずれにせよ今回も良い沢旅でした♪


カラ沢の様子。全体にぬめぬめ。
鶏冠尾根の下りは楽しい岩場が続く




2022年9月15日木曜日

大田切川中御所谷

【日にち】2021年10月4日(日帰り)
【場 所】大田切川中御所谷本谷(3級上)
【メンバー】ホラくん・クマ

自身二度目となる中央アルプスを代表する秀渓、大田切川中御所谷。今回はばっちり紅葉のタイミング、そして快晴!明るい花崗岩の沢にはこれ以上ないコンディションで臨めました。前回はリードで、しかも気合だけでランナウトしまくりのクライミングでの遡行で、緊張感に押しつぶされそうだったけど今回はホラくんが終始リード。セカンドだとこんなにも精神的に違うものかと思い知ったのでした。これもまた学び、そしてひそかに老いを感じるのでした・・・。