2015年6月20日土曜日

小坂の滝 備忘録 椹谷 最終章

まだ明けやらぬ午前4時。ごそごそと寝袋から這い出すと辺りは白みかけている。1年で最も日が長いだろうシーズンは否が応でも早起きしてしまう。レーザービームの効果音のようなコマドリの鳴き声がそこらじゅうに響き渡り夜明けを告げる。さて、朝飯でも食べるか。目の前を流れる清らかな沢の水で白米を炊く。沢ではこれが贅沢。そんなわけで質素な朝食を済ませ撤収。おのおの沢支度を済ませAM6時いざ出発!2日目のスタートです。


 昨日の巨岩帯ゴルジュとはうってかわり美しいナメ床、開けた空。出だしは好調だ。10分も歩くと本日最初の課題、あまつばの滝17mが登場。小坂の滝の中ではめずらしく裏見の滝(滝の裏側に回り込める)滝である。両岸は溶岩流の層がここだけ立ち上がり絶壁を成している。少し手前から巻道を探るとやはりルンゼが弱点に見える。少し詰め上がると岩壁すれすれに見事なルート取りの巻道を発見。おそらく最短ルートであろう巻道をまんまと利用し難なくあまつばの滝上部に降り立つことができた。この薪道何を隠そうNPOのルート工作によるものである。諸先輩方のルーファイの質の高さには毎度ながら脱帽である。あまつばの滝を越えてからというもの岩質ががらっと変わりお隣の兵衛谷よろしく溶岩の谷に豹変した。なおかつ適度な頻度で10m未満の滝が連発。次
今日は時間に余裕がある。直登できそうな滝は直登!K山氏のリード(というかフリーソロ)であっさりクリア。念のため後続は上から確保。楽しいアトラクションである

お次に登場したのは登って下さい!といわんばかりに滝壺に立てかけてある倒木を橋代わりに落ち口へと登る。ここには先人も登った形跡(ステップ用に?)ナタ目が刻んであった。和合仙人の仕事であろう。本当に楽しい谷だ。しかしその楽しい気分もこの滝までだった。

 美しい10m滝を前衛になにやら奥にはデカイ滝が見えている。本日最大の山場の登場である。
やはり溶岩の岩壁が両岸せり上がり正面突破を考えても取りつく島はない。やはりセオリー通りルンゼを詰めていく。詰めるに従い斜度は増すものの問題なくテラスに上がり一息。しかしここからはどこをどう見てもクマザサの海。昨日は濃い樹林帯、今日は密生したクマザサ・・・。やはり藪漕ぎは必須なんですね、この谷は。ぶーぶー言っても進まないのでとりあえず笹海へダイブ!積雪の影響で完全に寝てしまった笹は見通しは効きやすいものの足元に横たわり良く滑る!足を滑らせれば谷に向けてすべりおちそうになるがっしり笹を束にしてつかみながら掻き分けながら、今日も野生動物のごとく四本足になって藪の中をじりじり進んでいく。
最初に見えていたデカイ滝はやはりデカかった。藪の意海を下降して登り返すのが億劫になったので滝の正面には出ず高度を維持してまとめてまく事にする。なおも苦しい藪漕ぎを経てなんとか大滝上に落ち口ピタリで降り立つことが出来た。ここからは地形図でみても等高線はおだやかになり、ぼちぼち林道かというところだ。2日間の奮闘で足腰はくたくたわずか15kmに満たない遡行距離のわりに体の痛み方がどうも比例せず3日間分くらいの疲労を蓄積しているように思えた。天気も良いし急ぐ必要もないのでのんびり散歩気分でGOALを目指す。途中またもや渓相ががらっと代わり大きな節理の溶岩ゴルジュが登場。無論河床は砂利で埋まっているので遡行に問題はないが美しい光景だ。まさか椹谷上流部にこんな溶岩流の谷があるとは想像もしていなかったことである。このまさかの出会いがまだ見ぬ遡行エリアの楽しさでもある。
 溶岩流のプチゴルジュを越えるといよいよフィナーレ。渓には橋が架かり久しぶりの人工物が目の前に現れた。と同時に僕たちの冒険にも終わりを告げた瞬間だ。
下流部の巨岩帯、中流部の大滝郡、上流部の変化に富んだ渓相。椹谷は小坂屈指の秘境であるといっても良いでしょう。林道を歩きデポ車へ到着。装備を解除し温泉へGO!さっぱりして爽快な気分でがんだて公園へ戻ると和合仙人がいた。今回の冒険の話をしていると「3段の滝は高巻きで全部まとめて越えていきました」というくだりで和合仙人が一言「さぼっちゃいかん」そうなんです僕らはサボっていたらしいです。仙人に言わせてみれば「全部滝壺までおりにゃあかん」だそうです。いやはや仙人には頭が上がりません。という訳で僕たちはまたまた宿題を残してきました。椹谷に存在するすべての滝の滝壺に降り立つ。それで初めて小坂の滝を知っていると言えるのでしょう。
いや~奥が深い!時間と体力が許す限りリベンジしよう。そう心に誓い?今回の備忘録のまとめとしたいと思います!?取りあえず未遡行区間の遡行が先かな。さぁまだまだあるぞ小坂の滝。冒険は続きます。

2015年6月17日水曜日

小坂の滝 備忘録 椹谷 その2

昼食を終えいよいよ核心部への突入だ。気合を入れ直し回廊の滝の高巻きへ挑む。右岸の広いルンゼは登るとほどなく二股になる。全歩に見える岩溝が高さは低いが立っているように見えそれを避け中間の尾根場を登る事にした。結果的にこれが全ての判断ミスの始まりとなった。
左のルンゼは伏流したガレ沢の様相。上部は平にみえる気がする。尾根を登りきれないと判断しガレ沢へ降り詰めることに。しかしこれが悪い!ガラガラなうえ傾斜がありひとたび落石を落とそうものなら狭い谷底故、後続に直撃してしまう。神経を足先、指先に集中しながら”体重を殺して”登る。神経衰弱のようなデリケートな高巻きを終えやっとの思いで安定した尾根に乗り上げる事が出来た時の安堵感はたまらなかった。そこから山腹をすこしトラバースすると椹谷本流に落ちる滝の音がはるか下方からしている。とりあえずザックをデポして偵察に行く事に。ぐんぐん急斜度を下っていくと滝の音が轟音となって響いてくる。「これはかなりデカいやつがいるぞ」とイメージしながら下り続ける。途中木の枝で懸垂したりなんとか滝の見える位置まで来ると目の前には驚愕の光景が広がっていた。
20m前衛滝を筆頭にそれぞれが10m級の滝が奥行きを持って3段、狭い廊下の中水大水量を谷幅いっぱいの奔流となって落としていた。それは想像をはるかに超えた姿だった。「これはどうしたものか」右岸を見上げれば50mはあろうかという岩壁が谷を囲み、左岸はさらに高い絶壁を擁していた。これは一目瞭然。今来た道をもどりさらに3段の滝を越えるためにさらなる大高巻きを継続することが現状の打開策だった。さて、高度差50mをヘロヘロになりながらのぼり返す。ザックを回収し上で待つ二人に合流。しばし作戦会議ののち、高度を上げながらトラバースをすることにした。
まだまだ登る。滝壺から確認できたルンゼの頭辺りを横切るころには背丈の低いサワラやヒノキの密生地となった。枝がザックに絡まり思うように前に進めない。1段目の滝の頭辺りをトラバースするころ異変に気が付いた。「あの岩壁の上の株、妙に人工的な切り口じゃないか?」遠くに見えたのは間違いなく切り株だった。しかしなぜこんなところに・・・。密な藪(樹林)の中をかき分けながらの苦しいトラバースを続けている最中また切り株を発見した。しかもそこかしこに。かなり年数はたっているもののこれは斧や手ノコの仕事ではなさそうだ。チェーンソーによる伐採後であることは疑いなかった。
このやぶは伐採の後植栽されずに天然更新された樹林帯のため密生していることが分かった。しかしよこもまあこんなところまで刈り込んだもんだ。今僕たちがとりついている角助山の山頂から山体全体が切り尽くされているのだろう。容易にそんな想像ができた。切り株たちの在りし日の姿を想像するにここもまた谷合の立派な天然林だったろうに・・・。隣を流れる兵衛谷との大きな差はこの谷合の林層なのかもしれない。雰囲気が全然違う。兵衛谷のそれは巨木立ち並ぶ原始の森。このように差があるものかと思う。
さてそんなノスタルジーに浸ったのも一瞬。現実は藪の中。まだまだ滝を巻ききれていないわけです。次第に日照が良くなりシャクナゲが藪の中に表れ始めた。このシャクナゲもたちが悪い!えだは固く、幹はぐねぐね。絡まるんもなんのって。思わずK山氏の口から「獣もこんな藪通らんわ」半分やけくそになりながら突破していく。3段目をおよそ巻き終えたあたりで対岸を見ると支流のツガ谷から落ちる滝が見えている。そろそろ下降を開始せねばということで藪を下方へ谷の様子を見る事に。数メートル先で足元が切れ落ちているが谷底は確認できない。懸垂下降も危険な状況であると判断しまたのぼり返す。途中降りられそうな尾根は一か所しかない。その尾根にわずかな望みを託しながら深まる藪を無心で掻き分け進んでいく。目標の尾根にたどり着き下降を開始。望は通じたのか何とか谷底に降りることができた。それにしてもとんでもなく長~い高巻きだった。
時刻を確認し、出発時間から差し引くと2時間!距離にして水平距離200m程度しか進んでいないのにもかかわらずこの時間って。中流部のゴルジュ帯これにて完了!あとはもう平坦な道をだらだらいくだけだと完全に気が抜けていた。しかしそうは問屋が卸さない。
わずか5分。なんということでしょう。20m大滝が(泣)もういいです。おなかいっぱいです。かんべんしてください。正直そんな感じでした。しかし対峙した滝の形は非常に美しく今までにあまりお目にかかったことが無いような形状だった。写真では伝わりにくいが斜めに立てかけた板の上に水を落としたような立体的な水流の異形滝だった。高巻きはやはり大きく巻くしかないかと思いながらも推薦に近いラインどりで多少の急登も混ぜながら高度を上げると落ち口ぴったりにコンパクトに巻く事が出来た。高巻きもだいぶ慣れたようだ。しかしもう大滝は勘弁です。その願いが通じたのか渓相は明るく開け穏やかになった。癒されながら歩みを進めると今日最後の滝が現れた。しかしその滝は今までの滝とは違い優しく穏やかなものだった。あ~やっとたどり着いた。これで今日の宿に着いたぞ。安堵感は半端無い!テン場は川のほとりを選びそれぞれ犬小屋を設営。夕食を済ませてもまだまだ明るい空だったが眠気に誘われてそのまま眠りにつく。明日の冒険はいかに・・・。

2015年6月14日日曜日

小坂の滝 備忘録 椹谷中流部編 その1

小坂には3つの名渓があると思っている。それは濁河川本谷・兵衛谷・椹谷の3本。それぞれに特徴は異なり独自の世界観を醸し出している。その中でも椹谷は独特の陰険さとでもいおうか、人を寄せ付けないものがある。自分自身長年懸案事項に上がりながらもその陰険さゆえに繰越リストに残り続けてきた”宿題”だった。今回は意を決してその椹谷に足を踏み入れた。今回の遡行の目的は椹谷全域の空白地帯を埋める事。最下流には三ツ滝、中流部に回廊の滝、最上流には千畳の滝とういう小坂を代表する名瀑を擁する椹谷は兵衛谷には劣るものの”滝のデパート”のような谷だ。ただ濁河川や兵衛谷と比較して異質なのがその圧倒的な”威圧感”その威圧感は廊下の側壁の高さ、巨岩帯、エスケープルートの困難さなど遡行を行う上でプレッシャーとなりうる要素が多いためである。そんな陰険な沢に対して挑むメンバーはいつものK山氏&Y下氏。3人いればなんとかなるさ。さあ冒険の始まり始まり~。
陰険な廊下に希望の光を求めて

AM4時に道の駅へ集合。今回の旅の終着地点濁河温泉まで車を回すことから始める。6月も中旬になるとずいぶん日の出も早くなり道中御嶽山のモルゲンロートに期せづして遭遇する。これは幸先が良い。濁河回送後早々に元来た道を折り返し出発地点である椹谷林道のゲート前に着いたのはAM7時にほど近かった。出発準備を整えいざ出発。入渓点までは2kmの徒歩だ。1泊分の寝床や食料、登攀具などを背負い込んでいるため体が重く足取りは最初から重い。
ようやく入渓点にたどり着いた時には汗だく!まずは沢でクールダウン。ここからが本番だ。
入渓点は開けて明るい。でも巨岩ごろごろ(まだ小さい)
以前からこの入渓点から回廊の滝までは複数回遡行している。1か所を除いては・・・。
序盤から巨岩帯と重い荷物に悩まされる。ひとつひとつが「いちいちデカイ」岩は乗り越えるのが一苦労。時には10mサイズの転石もあり乗り越えるために高巻きを迫られる場面も多々あり体力も去る事ながら気力までも奪われる。延々とつづく巨岩帯にぶーぶー言いながらすすんでいくと関門の滝が姿を現した。この滝は秀麗で高い側壁の上から暗い廊下に朝日をあびて光のシャワーのように注ぎ込む滝である。写真では上手く納められなかったが一見の価値のある滝だ。関門の滝の名の通りこの滝のすぐ上流に本日最初の難関CS10m滝が眼前の景色をふさいでいるのが確認できた。前衛の5m小滝は泳いで這い上がれそうだが今回は高巻きを選択。左岸のルンゼより這い上がると明瞭な巻道があった。それを利用しCS10m滝に近づいてみるとその光景に息をのんだ。
CS滝の左岸は濡れた急なスラブ。クラックは走っているもののとても登れそうにもない。右岸に目をやるとルンゼからほっそーいバンドめがけてラインが見える。しかしその先は非常に危なそうな直登をしなければ安定したバンドには乗り込めそうもない。「これは無理やろ~」としばし3人で協議。もう少し高度を稼ぎ見えている高みのバンドへ上から懸垂下降で降りてはどうかという打開策を見出す。しかし現実は甘くなかった。今日用意している30mザイルでは到底降りられそうにない行程差、加えて立場すら安定しないガレ。この案は実行に移す前に却下された。残る選択肢はかなり下流にもどっての右岸の大高巻きかリスクを冒しての左岸の直登か・・・。これから待ち受ける中流部の難所を前にここで大高巻きに充てられる時間はない!ということで直登する事に。慎重にルンゼを下りとりつき地点から観察するとルートは約20m程度か。まじかで見ると確かに登れそうではある。リードでロープをのばし緊張の登攀。途中2個所のランニングビレーを取り慎重に登る。高度感はあるが問題の無いクライミングで難なくテラスへ到着。後続をビレーするために立ち木などのビレーポイントを探すが見つからない。「ボディービレーしかないか・・・。」と思って目線を落とすと目の前の岩壁にハンガーボルトを発見!やったーと思うと同時になんでこんな代物がここに・・・。そんな違和感を覚えた。しかしあるものはありがたく使わせて頂こう。これをアンカーに後続をトップロープで確保。荷揚げなども含めると30分を要した。その先しばらく巨岩CSゴルジュと化した谷底を横目にみながら巻いていくとほどなく与左衛門谷が合流、谷を見送りほどなく少し開けたところでひといき。まったく序盤から手こずらせてくれる。この先どれほどの困難が待ち受けているのか・・・。その時の僕には不安しかなかった。
迷宮の入口CS10m滝左岸の垂壁に活路を見出す

2015年6月9日火曜日

ガイドのお仕事 その2

ガイド冥利につきること。それはお客様からの指名。ありがたいことに何組かのお客様には数居るガイドの中から僕を指名して頂けることがままあります。つい先日そんな事例があり改めて思ったので今夜のネタはこれにしようと思います。
僕のその時の案内が良かったのか、その時のシチュエーション(気候・機嫌など)のためなのかは定かではありませんが結果とし「もう一度この人におねがいしよう」とアクションを起こしていただけるのは本当にありがたいことです。そのためこちらのモチベーションも俄然上がります。と同時にプレッシャーもあります。以前と同じことはできない。とか、以前との脈略がなければならない。とか色々考えるわけです。でもいざツアーの日、そのお客様といざ”再開”すればお互いに旧知の友人のように(とまではいかないか)ふるまう事ができるのが不思議です。ひとたびツアーが始まればすでに出来上がった関係の上にまた新たな気づきや出会いでお互いの刺激になります。こんな機会を与えてくれる指名を通じた経験は非常に価値が高い。また、人にリピートしてくれるお客様はヘビーリピーターになりやすいという傾向も掴んでいるので尚更ありがたい。地域資源は宝。でももっと価値があるのはその資源の中、実生活を送っている地の人だったりする。ずーっと地元に住んでいるとわからんもんですが外で暮らしている人から見たら案外輝きを放っているものです。交流によって生じる化学変化に期待を寄せつつ徒然なるままに書き留めました。さあ明日からもがんばるぞ!
滝の常連さんとのスペシャルツアーにて(みんいい顔だな~)

2015年6月6日土曜日

小坂の滝 濁河川本谷中流部まで 最終章

根尾滝の高巻を終えしばし放心状態のぼくたち。ふと我にかえり、前方にルートを探ると側壁は高くないものの高巻をするには少々時間を消費しそうな淵が見えている。最短ルートの水線に目をやると目測で10mほどか完全に水没しないと進めないように見受けられた。昨日はさんざん泳がされ、その冷たい水温にも滅入っていたので少し躊躇したものの水線突破を選択。結果的にはこの日最初で最後の泳ぎとなった。


その後は木漏れ日溢れる平穏な渓歩き。冒険には緩急はつきもの。こんな”緩やか”な時の流れが心地よい。ただそれは長くは続かないのも冒険である。
両岸が狭まるとすぐに岸壁囲む淵(いわゆるゴルジュ)の出現。内心泳ぎたくないな~と思いながら活路を見出すべく弱点を注意深く探る。大きな淵の真ん中に砂地があり浅くなっている。そこに乗りさらに先を探るとうまく岸壁のでっぱりに取り付けそうだ。えいっと一またぎ!難なく水没することなくその難所?を乗り越えることが出来た。だがしかし喜びもつかの間。ぐいっとまがった谷の先に大釜を携えた馬の鞍滝(2段20m)が姿を現した。その威圧感ときたら・・・。あとあと写真を見ると大したことない滝だな。と思うもののその時は”窮地”に追いやられたような焦燥感を感じていた。窮地に追いやられた時人は必至で活路を見出そうとする。退くも勇気、去るも勇気。そんな感じだった。滝を直登しよう。相棒のK山氏はそう提案する。しかし今の自分にこれを直登する技術も根性もなかった。敗退である。

結果的に右岸を高巻きし2段まとめて鉄道路を使った天空のトラバースで越えていった。ここからは正直負け試合である。次に下方に見えている滝にいったん降りてみるもやはり登れない。いや登れそうだが登る気力が無い。とにかく今は谷から脱出したいその一心だった。
高巻きを駆使し部分的に急斜面は懸垂下降を用いていったりきたりしていると取水堰堤に飛び出した。あ~ようやく解放された。そんな気分だった。取水堰堤から管理経路を経て車が通れる林道に出る。安定したこの違和感のある道に安ど感すら感じる。前日にデポしたK山氏のジ〇ニーに向けて林道を2kmとぼとぼ歩く。馬鹿話をしながら旅を振り返り余韻に浸る・・・。
残り数百メートルだったか、冗談で、車のカギ無かったら歩いてがんだてまで帰らなかんね!と僕。その一言を受けてワンテンポおいてK山氏の表情が豹変した。 その刹那はたと立ち止まりザックの天蓋をくまなく探す。そこにとどまらず本体も探し尽くすとひとこと「忘れた・・・。」冗談が真実となった瞬間だった。車での下山が夢と散った。ここからは自力下山しかない。携帯電話を持たない(持っていても電波は通じない)僕らに残された選択肢はそこから10km先の濁河温泉を目指し上るか20km先のがんだて公園をめざし下るか。その時は登りでもいいから近い方へ行こうと即決。閉ざされた車の腹に荷物を潜り込ませ飲み物とタバコとライターをポケットにいれて歩き出す。「ま、なるようになるさ」その後の事はあまりはっきりとは覚えていない。ただ放出され続けるアドレナリンでほぼ無意識で歩き続け結果として10km先の濁河温泉・旅館御岳にたどり着いていた。

おやじの車にゆられがんだて公園についたのは19時を回っていた。結果的に迎えに来てもらったのだ。実家の近くの沢だったのでできた神業。感謝が尽きない。その後の僕たちの沢タビに「鍵よし!」の指さしチェックが出発前の点検の必須項目になったことはいまさら言うまでもない。
はじめての沢泊は最後にとっても楽しいおまけつきでした。おしまい。また気が向いたら次の冒険の話をするとしよう。それはまた別のお話・・・。(森本レオ・王様のレストラン風)