2015年5月12日火曜日

小坂の滝 濁河川本谷編 その2

滝めぐりを主軸としながらも活動の幅を広げることも視野に入れて色々と試していると、本来自分が大切にしていていちばん伝えたいものが何だったのかふと「目を切る」瞬間、いや「間」があることに気が付きました。中心にあるものそれは「魂が震える体験」。野生の中に身を置き一昼夜そこで過ごすことで野生に還っていくようなそんな体験。威圧的な側壁に遮られ昼なお暗い谷底で進退窮まるあの恐怖。おひさまの光がたまらなく暖かくて地球に生まれて良かったとさえ思うようなそんな喜び。全てが魂を揺さぶる体験。その原点を振り返り文章化することで頭と気持ちを整理し明日への原動力としたいと思います。
さあ、逃げ場はないぞ。越えていけ。


さて、前回の続き、ここから始めます。

準備万端で臨んだはずの沢登。巌立を下から見上げ入渓した濁河川本谷は思いのほか明るい谷だ。中学生の頃引き返した地点を過ぎると正面に岩壁で囲まれた大きな渕が行く手を遮る。開始から30分。最初の泳ぎである。この泳ぎはわずか10m程度ではあるが水深は計り知れぬほど深い。(透明度の高い水ですらそこが全く見えない)その上を泳いで通過するのはある種”度胸”が居る。また、真夏とは思えないほどにキンキンに冷えた水がおへそを越すと心臓がバクバク早打ちし始める。のっけかから”恐怖”を覚えた。しかしここで引き下がるわけにはいかない。思いを決めていざSwim!リュックサックを担いでの平泳ぎは初めて。ウエストベルトを着けていたせいもあり頭が押さえつけられ泳ぎにくい!そして水面ぎりぎりから見える水の色の変化の怖いこと!青⇒蒼⇒藍⇒黒⇒漆黒・・・。下から足を引っ張られないのがおかしいくらい不気味な水の色にいやがおうにも胸が早打ちする。そんなダブルパンチで必死の思いで岸に着いた時には猛ダッシュした時なみに息が上がっている。最初の洗礼は強烈で今なお脳裏に鮮やかによみがえる体験であった。
最初の洗礼(※写真は初遡行時のものではない)
はじめての遡行、初めての泳ぎ、初めて味わう恐怖。全てが新鮮。この時、この瞬間沢登の世界にのめりこむ、その扉が開いた。この鮮烈な体験を皮切りに遡行の楽しさは増し続けた。出てくる渕は積極的に泳ぎ抜け、岩壁はきわどくヘツりを交えて越えていく。小さいころから野山、河原で遊んだ経験が100%活かされている。体の中に眠っている野生が蘇り、そして同時に童心に還る。日常生活では決して体験できない経験だった。そんな楽しい遡行を続ける事3時間。柴巻の滝という(その後数年たって初めてその滝の名前を知った・・・。)落差4m程度の非常に大きな釜を持つ滝に出会った。ここまではいたって順調。ここで終われば沢登って明るいイメージで超楽しい!で終わったと思う。ここからが沢登の恐怖、そして真の愉しさが待っていた。
柴巻の滝(写真は当時のものではない)
この柴巻の滝を越えると突如として谷はその姿を変えた。さっきまでさんさんと降り注いでいた日差しはどこえやら谷はひるまとは思えぬ暗さに。その原因は谷を囲む側壁の高さ。覆いかぶさる(?)ようにさえみえる岩壁に完全に威圧された。次第に谷は狭くなりついには完全にゴルジュ。(両岸切り立ち長い淵になっている場所)正面に1m程度の小滝はみえているが谷の水量をぎゅっと集約したその流れに歯が立つはずもなく押し流される。活路は右岸の岩盤か。胸ぐらいの高さに水中から這い上がるのは至難の業だ。気合で何とか乗り越えたもののその先が問題だった。岩盤で囲まれたホールのそこは泡立つ水たまり。退路は往路を引き返すしかないが夕暮れになってしまう。突破口はただひとつ。正面に鎮座し行く手を遮る5m2段の強烈な水流を落とす滝。正直絶望的な光景だった。なんの登攀具も技術も発想ももたない僕には活路すら見いだせない。寒さのせいか身震いが止まらない。思考がまとまらない。今思えば低体温症の初期症状だったのかな。取りあえず滝の登れそうな場所を登ってみると滝の落ち口で行き詰る。足元はゴーゴーと轟音を立てて白竜が滝壺めがけてうごめいている。水流で磨かれた岩壁はつるつるして手がかりもない。足場はあるがそこに重心を移すと上体がが岩に押され滝に吸い込まれそうになる。必死で指のかかりそうなクラックを探して手探りしていると人為的に撃ち込まれた金属を発見した。ハーケンと呼ばれる岩に打ち込んで確保に使う金具のことで頭にはカラビナをかけるための穴が空いている。「これでいける!」と思い人差し指をそのわっかにつっこみ全体重をその金具(わずか2cm程度の頭)に預ける。1m先にあるその足場は近くて遠い。ジワりと体重をかけ安定した体制に乗り込めたときの安心感は半端ない!生きていることの実感。難所を乗り越えた安心感、そして何より達成感!この瞬間は忘れ得ない。
緊張のテラスを越える
その後の記憶は定かではない。寒さのせいか達成感のせいか。根尾滝遊歩道の急登を登り切り
デポした車へ。遡行の終了。スタート地点であるがんだて公園に帰着した時には放心状態だった。あまりにも色濃い一日(正確には半日か)これが僕の沢登初体験のエピソード。

それからというもの毎年この谷には”練習”と称して通い続けている。通算10回以上。たぶん人生でもっとも通っている谷だと思う。大きな谷の下流部だけに変化が大きく飽きないのがこの谷の魅力か。その当時、K山氏と抱いた目標。いつかここ抜けて御嶽山に至る!その夢は意外と長い時間を要する事になるがそれはまた別の話。今日はこれくらいでご勘弁。また気が向けばまたお話しましょう。

さて、5月は足早に駆け抜けていく。6月からは小坂の沢登シーズン到来です!!
ぼちぼち仕事もがんばるぞ!!

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