2023年4月6日木曜日

静かな春の御嶽山をもとめて(摩利支天北西尾根)

3月下旬から4月下旬の春の御嶽山。毎年この時期は冬が終わり穏やかな気候が訪れ、平和で静かな雪稜を楽しむことができるのでお気に入りの季節だ。本格的に雪山を始めたのもちょうどこの時期の御嶽山が事始めだった。10年前は冬の御嶽、特に濁河側から訪れる人の数はそんなに多くは無く、トレースが無いのは当たり前で、毎回ラッセルだったことを記憶している。

しかしこの3年、冬でも週末になれば駐車場は満車。平日でも登山者が一定数入っているのでトレースが消えることは無く、森林限界まではまるで高速道路のごとき状況が多い。無論、いつ行っても誰かしら登山者に出会う。雪山で人に沢山出会うのは八ヶ岳くらいだと思っていたのはもう昔。御嶽山は冬山でも人気を博して(?)いるといってもいいのではないか。
この状況になったのもきっとYAMAPやヤマレコなどの登山系SNSの働きの大なるところは否めない。情報はリアルタイムに更新され、登山のうえでリスクとなりうる現地の積雪状況やルートの情報なども正確に追体験できるようになった。かくいう僕も良く参考にしている。
しかし一方で”未知への期待感・不安感”が損なわれ冒険性に欠くようになった。ネット上のブログや紙面での情報は全てを明らかにしていないケースが多い。そう、ある程度の”妄想”を誘う余地がある。しかしSNS、とくにGPSの位置情報の軌跡はその余地を奪う。写真なども正確に撮影場所をプロットしてくれるので実際に現場に行かなくてもほぼ正確な状況をつかめてしまう。確かにこれは登山の不確実性を排除し安全性を高めるうえでは重要な役割を担ってくれるとは思う。しかし、これに頼り過ぎては前述の通り山登りの本来の楽しさ、”未知への冒険”を色褪せさせてしまうのではないだろうか。
僕は決してアナログ至上主義ではないし、新しいテクノロジーはどんどん活用すべきだと思っている。しかし、流されて本質を見失いたくないとも思う。幸い僕はまだSNS情報網やGPSなどが手軽に利用できない時代から山に入っていたので、未知への冒険の楽しさを知っている。
そう、今となっては御嶽山でそれを味わうことが難しくなってきた。そんな折、ふと昔の記録を読み返していたとき、13年前の記録に目が留まった。それは御嶽での沢登り熱が最高潮だった頃の記録で、お盆休みを利用して兵衛谷の支流、尺ナンズ谷を遡行し、継母岳に詰め、下山に藪漕ぎで摩利支天北西尾根を下山した時の記録だった。
あれは今でも記憶に残る”未知への冒険”だった。尺ナンズの遡行記録はほとんどネット上でも見つけられず、頼りにしたのは和合さんの話と写真。そして若かった僕らはそれだけでは飽き足らず、まだ未踏だった継母岳と摩利支天の先に続く北西尾根をまとめて計画にぶち込んだ。遡行も下降も気の抜けない計画でワクワクとドキドキでいっぱいだった。そしてもちろん不安でいっぱいだった。

と、ずいぶん前置きが長くなってしまったけど、今回そんな懐かしい記憶をたどって、そして静かな御嶽山を楽しみたくて、まず間違いなく人に出会うことはないであろう北西尾根から摩利支天山を目指すことにした。もちろん積雪期ははじめて。きっと誰かは登ったことがあるだろうし、そんなに困難なルートではないであろうと予想はついていたけれど、初めて訪れるわくわく感はあった。

展望台からこれから登る北西尾根が良く見える

いつも通り雪が緩む前に稜線を登って降りる計画で早朝スタートにした。とはいえ、6時台ですけど(笑)登山口に着くと平日なのに2台すでに車が停まって出発準備をしている。僕も早々に身支度。今回はトレースが無いのと融雪が進み特にスタート直後はズボズボだと当たりをつけた。湯ノ谷右岸の尾根に取りつき登山スタート。ワカンを履いていてもズボる。しかも出だしがわりと急。気温が高いのも助けて汗だくになって登った。標高2000m付近までは結局ワカンで通すことになった。ようやく雪面も締まりアイゼンに履き替えるとすぐに森林限界を迎えた。以前の訪問時にはひどい藪漕ぎを強いられた尾根も積雪のおかげですっきり快適。おまけに眺望も最高。やはり積雪期に登る尾根だ。尾根が北向きから北西向きに屈曲するあたりは風の通り道で雪庇が発達していた様子が随所に見受けられた。厳冬期は風が酷いのだと容易に想像できる。


森林限界に出た
ところで以前来た時には旧道の証らしき道の形跡や慰霊碑などを見つけた。今回も雪が切れた岩場に見覚えのある場所があって近づいてみるとやはり以前見つけた慰霊碑がそこにはあった。静かに手を合わせてその場を後にした。
摩利支天と継子岳越に北アルプスが良く見える
尾根は快適そのもの。景色も良いし傾斜もほどほど。ただ一向に摩利支天が近づかない。見えてると思いのほか遠くなる現象。とはいえ焦る必要はないのでのんびりと誰もいない静かな御嶽の尾根歩きを満喫した。
なだらかな雪稜が続く。まるでスキー場。
摩利支天に近づくと岩場がでてくる。雪もついていなくてアイゼンで岩の上を歩く。山頂直下では3mほどの岩登り。とはいえ傾斜もゆるく簡単。あっけなく摩利支天の山頂にたどり着いた。時間もはやいこともあってここも誰もいない。しばしのんびりと摩利支天山の山頂を独り楽しんだ。

摩利支天山頂
山頂を後にして尾根から見えていて気になった、兵衛谷の最高所の滝にもせっかくなので立ち寄ることにした。尾根の適当なところから源頭目指して斜降する。標高2750m日本最高所の滝はしっかりとした氷瀑になっていた。12月の初旬に凍り始めたそれを見に来たことがあったがそれよりも立派だった。おそらく季節柄融雪と凍結を繰り返し、この季節に立派に成長したのだと推測できる。あらたな発見だ。

最高所の滝の氷瀑
一通り滝を楽しんだ後は下山、とはいえ登り返し。時間も余裕があるので通常ルートの様子も確認したく、摩利支天乗越を越え、五ノ池に下った。森林限界までのアルパインエリアはまだかろうじて締まっており、緩む前にと、すばやく下った。樹林帯はトレースもあるのでアイゼンを外しさらに加速して下る。あっという間の下山だ。
乗越からの景色がやっぱり好き
短い時間ではあったけどコンパクトにいろんな要素を楽しめるこのルートは春の御嶽を楽しむルートとして素晴らしいルートだと思う。またコンディションによっても雰囲気は変わりそうだけど何度か訪れてみたい。こうなると他の尾根もきになるな。次は兵衛谷側の尾根にトライしようかな~。
 

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